アンダーカレント

「他人に興味がない」と口にするのはたやすい。 思春期を迎えた少年少女であれば一度はそんな言葉をつぶやくのだろうし、あるいは 「大人は判ってくれない」とうそぶくこともあるのだろう。裏を返せばそれはじぶんを 理解してほしいという願いであり、耐え難…

コクリコ坂から

海の見える丘で下宿屋を切り盛りする高校生の松崎海(声:長澤まさみ)は、家事と学業に 追われる日々のなかで風間俊(声:岡田准一)と出会う。文化部の部室棟“カルチェラタン”を 巡る騒動を背景に、ほのかな想いは思いがけない運命へとみちびかれてゆく。 …

ソーシャルネットワーク

「セブン」のデヴィッド・フィンチャーがはじめて実在の人物を描いた本作は、 facebook CEOのマーク・ザッカーバーグを中心に、世界最大のSNSをとりまく 若者たちの成功と苦悩、確執を捉えた。 ハーバード大学に学ぶマーク(ジェシー・アイゼンバーグ)は、…

わたしを離さないで

いつか、苦しみのない世界が訪れるとして。われらのささやかな倫理はこの 果てしない断絶を引き受け、みずからを赦し、それでもなお、とこしえの生を ねがうことができるのだろうか。 厳格な規則の下に生きる寄宿舎のこどもたち。それぞれの将来を語りはじめ…

BIUTIFUL

グローバリゼーションがどうしたとか、不法移民を抱えた社会がどうあるべきか、 なんていう発想はきれいさっぱり忘れてほしい。バルセロナの喧騒にイニャリトゥ 監督が問いかけたものは、そんなちっぽけな切り口なんかではもちろんなくて、 誰しもが個別の生…

森崎書店の日々

あらゆる映画が日常における事件であるならばまだしも、日常を 映画の方法で事件化することは、ひとえに怠惰のなせるわざである。 なれ親しんだ街を描く痛々しいまでの高揚をとらえる努力と同様に、 対象へ近づく適度な距離をはからねば、批評の地平を見失う…

スプリング・フィーバー

理解では足りない。共感では、とどかない。 倒錯する性や無軌道な日常をたどったところで、この愛にせまることはできないだろう。 こたえのない関係を問い、苦しみまで引き受けることでようやく、不実な春の漂泊に、 全き愛のすがたを見出すことがかなうのだ…

クレイジー・ハート

その愛は遠くから、自身へと立ち返る哀しみの斥力を帯びていた。 旅に生きるもののすがたは儚くも日々の痛みを持ちこたえたまま、 真正面から切り結ぶことのできない現実との距離を測りかねている。 絶望の淵を覗き込む勇気さえ持てぬ者たちよ、この旅を見届…

プレシャス

Wo viel Licht ist , ist starker Schatten. 光挿す場所にいて、闇の冥さがわかるものか いまに何かが起こる、だれかがアタシを変えてくれる。16歳のプレシャス(ガボレイ ・シディベ)は、困難と向き合うたびに空想の世界へと旅立ってしまう。読み書きが 苦…

空気人形

ひとはなぜ生きるのか。この問いには、ある転倒が加えられている。 街の灯りに照らされて、長くのびた影法師がふたつ。もの静かな青年、 ジュンイチの影はそこにあるのに、ノゾミの影は透きとおってしまう。 生きることがじぶんを象る人間と、何かのために生…

隣人に光が差すとき

おそらく、安藤裕子のくぐった門はそう狭いものではなかった。 俳優としてデビューを飾るもののお世辞にも役柄には恵まれず、 戯れに披露した歌唱が注目を集めた後に歌手として脚光を浴びる。 誰しもに開かれた道が狭隘な出口しか持たない例に照らす限り、 …

イングロリアス・バスターズ

牧歌的な日常のなかに、ぴんと張られた一枚の寝具。 風に吹かれて翻る向こう側の景色には、ハーケンクロイツをはためかせ近付く、ナチスの車輛たち。 ここは占領下のフランスだ。観衆は此岸から、自らの持つ歴史の文脈に物語を重ねる。 スクリーンに定着する…